この作品は執筆を終了しています。
堕ちゆく約束
-
- 1 : 2014/03/29(土) 10:54:54 :
- アニがクリスタルに包まれるとき、
どんなことを感じ、何を考えていたのだろうか。
きっと、『普通』でいたかったのだろと
私は想像(妄想)していました。
そんなアニの気持ち(私の妄想)を短編としてまとめてみました。
-
- 2 : 2014/03/29(土) 10:55:38 :
- 「…アニ…アニーッ! 出て来い…!この落とし前つけろ!!」
――私のまわりで、誰かが私を呼んでいる…ん…?何か振動を感じる?
あれ?体が動かない…どういうこと? あぁ…そっか…そういうことか。
大儀は失敗したんだ。だから、固まったのか…でも、これで…よかった、もうこれ以上、
大儀の為とはいえ、誰も傷つけなくてすむ…みんな、ごめん、
父さん、約束を果たせなくて…ごめん…でも、私は父さんの…何だったの?――
アニ・レオンハートはストヘス区で巨人化したエレン・イエーガーとの戦いに敗れ
硬質のクリスタルに飲み込まれ始めると、その意識も遠のいていく。
自分が自分でなくなるような意識のもと、感情が溢れることはない。
ただ、ジャン・キルシュタインの叫び声に耳を傾け、アニはこれまでの人生を逆巻いていく。
-
- 4 : 2014/03/29(土) 10:55:56 :
- ――私が一番楽しかったのは…訓練兵の頃か…戦士であることを隠していた
私とライナー、ベルトルトの3人は…同じ年頃の仲間たちと訓練に励んでいた…
私は大儀を果たす為、みんなと距離を置いていたつもりなのに…
後に苦しくなるのは自分だってわかっていたはずなのに…だけど、気がつけば…
私はエレンを見ていた。最初は私の強敵になるかもって注視…していたんだ…。
常に一生懸命なあんたはバカみたいだったけど…でもそれが、あんたそのものだから。
二人で対人格闘するのはホント楽しかったよ…。
だって、どんなに私が倒しても、倒しても…へこたれない。
日を追うごと…強くなっていく…それがまた面白い。
だけど、私とエレンが一戦を交えるときのミカサの視線は怖かったな…
ベルトルトは寂しい視線を送ってきて…ベルトルト、あんたは…あのとき、
私とエレンの姿をどういう気持ちで見ていたんだろう。本当は人並みにしゃべるのに
あんたも戦士としての覚悟があるから、人を避けていたよね。
でも、ライナーはそれが出来なかった…きっと苦しんでいただろうね――
-
- 5 : 2014/03/29(土) 10:56:18 :
- アニの足の感覚がなくなっていく。息はできない。しかし意識はまだかすかに残る。
妙な感覚がアニを包んでいく。
――…巨人化したエレンが憎しみを込めて、私を見つめたときは悲しかった…
仕方ないってわかっている…だって、私はたくさんの調査兵を殺してしまった。
大儀の為…父さんとの約束の…約束…そのために人を殺しすぎた。
わかっているよ、私がしたことは…人殺しだ。だけど、同期を殺せなかった…って
私は結局、104期が好きだったのかな…大儀の為…約束の為に
自分を殺して、さらに人を殺した…でも、私は甘い。わかっている、
私は完全悪になれない殺人者…やっぱり、みんなの死に顔は見たくなかったから――
-
- 8 : 2014/03/29(土) 10:58:00 :
- そして、ゆったりとした冷たさが身体を駆け上ると両足は付け根まで感覚がなくなる。
――私の身体は…この先どうなるんだろう。大儀の為とはいえみんなを
裏切り続けていた。大好きなあいつらを…私は避けていたけど、ホントはみんなと…。
みんなとね…他愛のない話とか…したかったんだよ。誰々がカッコイイね、とか…
誰々が誰々を好きなんだって…とか、そういう話が耳に入るたび…聞こえない
振りをしていた。だって、その『誰々』みんなを私がいつか、この手にかけるって思ったら
みんなの素直さが怖かったよ。それなのに…私はあいつを見ていた。
ミカサの視線は痛いけど、私はずっと…見ていたよ、エレン…
あんたは…流れされているようで、揺ぎ無い信念を持っていたね。怖いくらいにね。
いつも、あんたの信念が私を打ち砕くだろうって覚悟していたけど、見事にこの様だ――
-
- 9 : 2014/03/29(土) 10:58:14 :
- アニは自嘲の笑みを浮かべるが、外から睨み続けるジャンには気づかれない。
分厚い透明なクリスタルの向こうのアニの表情は誰にも知られない。
『…アニ、父さんだけはおまえの味方だ…だから、約束してくれ…帰ってくるって』
――父さんが私を抱きしめて、初めて私の前で泣いたと思ったら大儀を託したよね。
あのときは、必ず果たしてやるって誓ったよ。小さい時から教えてくれた格闘技を
活かして、必ず…大儀を…って思っていたのに…私には荷が重すぎたよ…。
訓練兵を志願するだけで、普通の女の子とは違うのに…父さん、許す、許さないとか
じゃない…どうして、私だったんだろう。どうして、父さんだったんだろう…。
私は…この狭い壁の中でも普通でいたかったよ。私はもう帰れそうにない…
-
- 10 : 2014/03/29(土) 10:58:32 :
- 胸元まで氷に挟まれ、冷たさだけに支配される感覚がすると、
唯一、感じるのは左胸の鼓動だった。些細な感情が胸の中でうごめく。
――私はもう私じゃなくなる…ただの石の塊になってしまう…この冷たさはあれだ…
あぁ、ミカサの視線に似てる…あいつはほんとエレン大好きだよな…
壁に突き刺さった私の指を切り落としたとき…そして、私の額に乗ったときの…
あんたの視線…私を壁の外に逃がさない、という目的じゃないよね。
エレンへを私に渡したくない気持ち…あの熱い気持ちが
氷のような眼差しになったんだよね、きっと…ね。
ホントは私はエレンと一緒に…固まるつもりだったのに…ずっと一緒に
いられるはずだったのに…それさえも叶わなかった。調査兵団って…怖いね。
エレンに対する気持ちが強いのは…ミカサ、あんただけじゃないって…そのとき実感したよ。
-
- 11 : 2014/03/29(土) 10:58:54 :
- アニの胸の鼓動までが氷の冷たさで包み込まれ、
彼女の心を小さな虫が少しずつ蝕むように『氷の心』が完成してゆく――
――父さん、私は本当に帰れないよ…私は稀代の憎まれる存在になった…
だから…帰れなくてよかったかもしれない…。
こんな私でも、私は父さんの娘でいさせてね…父さん、いいよね?だけど…
私は…父さん…父さんも裏切っていた。大儀は果たせないだろうって思っていたよ。
たとえ巨人化できる身体を手に入れても…ムリだと思ってた…人をいっぱい…
殺しながら…あいつにさえ…拳をあんなにぶつけたのに…
私は何を考えているんだか…だって…いつも大儀と…
あいつへの気持ちで苦しかった…
…私は…エレンが…私はあんたが…す…き…――
アニの身体が完全にクリスタルに包まれると、その心さえも、
未知の世界へさまようことになる。
一番、嬉しかった瞬間を思い出したとき、最後はかすかに笑みを浮かべていた。
その淡い想いさえも、許されないようにクリスタルはすべてを飲み込んだ。
それは訓練兵時代、格闘を交えるとき、自分の目の前で拳を構えるエレンだった。
恐れを知らない過剰なくらい、自信に満ちた強い眼差しのエレンがアニは好きだった。
- 著者情報
- 「進撃の巨人」カテゴリの最新記事
- 「進撃の巨人」SSの交流広場
- 進撃の巨人 交流広場