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少女が歩む道
- まどマギ × 進撃の巨人
- 2050
- 66
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- 1 : 2014/02/12(水) 00:51:13 :
- こんばんは。
暇つぶしで書いていたら、楽しくなって超大作になりました。
進撃 × まどマギです。長いです。主軸は、進撃です。
せっかくなので、投稿します。
あくまで暇つぶし作品なので、暇つぶしに見てください。
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- 2 : 2014/02/12(水) 00:51:49 :
- ―ここは、どこ…?
長い気絶から目を覚ました少女は、うす暗い部屋を一瞥した。
殴られた頬の痛みから、悲劇の光景が思い出される。
―ああ、そうだ。私、拉致されたのか…。
少女、ミカサ・アッカーマンは先ほど起こった仕打ちに絶望していた。
つい先程、アッカーマン家は強盗に襲撃された。両親は惜別の言葉を言う暇も与えられずに殺され、ミカサも攫われてしまう。
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- 3 : 2014/02/12(水) 00:52:09 :
- ―これから、どうなるのかな。これから、笑う事ってあるのかな…。
今年、九回目の冬を迎えたばかりの少女にはつらい現実だ。自分の置かれた状況や家族との死別に涙することも、平穏を奪った人間に憤慨することもミカサはしない。
ただ、愛する家族と笑っていた過去の自分の姿に「さよなら」と告げるのみ…。
―お父さん、お母さん…。こんな思いをするのなら、いっそ私もそっちに行きたいな。
ミカサは悔いた。あの時、お母さんと一緒に立ち向かっていれば…。運命を呪うこともなかったかもしれない。あの時、一緒に死んでいれば、ずっとみんなと過ごせたかもしれない。
ミカサの小さな胸が漆色に黒く染まる。
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- 4 : 2014/02/12(水) 00:52:28 :
- ―私、これからどうすれば良いの?
この問いに答えてくれる人はこの世にいない。
今まで流れなかった心の結晶が、赤く腫れた頬を伝う。冷たい。その涙はミカサの感情を汲んでいるかのように冷え切っていた。
―寒い。
ミカサのか細い体は、見るに耐えないほどに震えている。
そんな少女に情けをかけるでもなく、天はただ乾いた大地を濡らす。
まるで、出口の無い迷宮に佇む少女の心を表すように…。
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- 5 : 2014/02/12(水) 00:52:46 :
- 「助けて…」
ふと言葉が口に出てしまった。奥に眠っていた本心が顔を出す。
ミカサは、家族に囲まれて暮らした幸せな日々を忘れていなかった。少し心が温かくなる。
―生きていたい。
この状況を変えることが出来れば…。せめて、生き延びることができる…。
しかし、手を縄で結ばれているこの現実が、不可能だと嘲笑する。
ミカサは自暴自棄に近いような形で呟いてみた。
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- 6 : 2014/02/12(水) 00:53:12 :
- 「奇跡って、起きないのかな…。まだ、生きていたい…」
「その言葉は、本当かい、ミカサ・アッカーマン?」
「だ、誰!?」
突然の来訪者にミカサが驚く。声の主は、窓の方にひっそりと座っている。
助けに来てくれた、という大きな期待に対して、不釣り合いなくらいに白く小さな体の持ち主だった。
「ボクの名前はキュゥべえ。どうやら、君には魔法少女になる素質があるみたいだ」
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- 7 : 2014/02/12(水) 00:53:29 :
- キュゥべえと名乗った不思議な生き物は、ミカサを助ける為に来た訳ではなさそうだ。
その赤々とした双眸からは何も窺い知ることは出来ない。まるで感情を持ちあわせていないようだった。
しかし、ミカサはおかしな生物が言った言葉を最も訝しく思った。
「魔法、少女…?」
「うん!君くらいの年齢の少女の願いを何でも一つ叶える代わりに、魔女を退治してもらう魔法少女になってもらっているのさ」
「願い…、何でも良いの…?」
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- 8 : 2014/02/12(水) 00:53:48 :
- 「どんな願いでも構わない。例えば…」
キュゥべえはわざと一呼吸置いてから、ミカサを見据えそっと言葉を続ける。
「『今の状況を変えてほしい』とかも可能だね」
「…」
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- 9 : 2014/02/12(水) 00:54:04 :
- ―何でも願いが叶う…。本当に…?
ミカサは、あまり多くない知識を総動員して考えた。魔法少女、魔女。聞きなれない言葉に不安はあったが、“願いが何でも叶う”という言葉に魅せられた。
魅力の陰に潜む不安を、減らそうと努力する。
「本当に、それだけ?体が痛くなるとか、ならない?」
とは言うものの、ミカサの頭ではこんな疑問しか浮かばなかった。
しかし、彼女が受けた仕打ちを鑑みれば、この疑問は至極真っ当だったのかもしれない。
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- 10 : 2014/02/12(水) 00:54:22 :
- 「大丈夫。契約において心身への害は無い。ただ…」
「ただ…?」
「契約で出来たソウルジェムを肌身離さず持っていてほしいってことが、一応の注意事項だね」
ソウルジェム…。また、聞きなれない言葉が耳に届く。
ミカサの頭は、不思議な言葉で窮屈になっていた。
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- 11 : 2014/02/12(水) 00:54:39 :
- 「なにそれ…?」
「魔法少女の証さ。契約と同時に生み出される宝石で、魔力の源泉だよ」
「…」
ミカサは再び黙ってしまった。どうも信じられない話ではあるが、なりふり構っていられないのも事実だった。
ミカサは一つ決意した。もう一度、運命を変える力を持つあの動物を見る。
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- 12 : 2014/02/12(水) 00:55:01 :
- 「…」
キュゥべえは何も言わずに、ただ笑みを返してくれた。少女の不安を拭うかの様なその顔を見ると、ミカサは信じたいと思った。
―キュゥべえと契約しよう。今は、これしか助かる道は無い。
少女は九歳にして初めて、自分の人生の岐路に立っていた。そして、決断した。
自分の最期をただ待つだけの虚空の道では無く、未知の生物と契約し、未知の脅威と闘う修羅の道を…。一縷の望みを持って…。
最後の最後に、もう一度念を押す。
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- 13 : 2014/02/12(水) 00:55:16 :
- 「本当に、何でも叶えてくれるんだよね?」
キュゥべえはこくり、と頷く。ミカサは、今一度強く決断する。
強い決意に滾るその顔には、もはや少女の面影は見られない。
人生を左右する決断をした少女の顔を見るや否や、白い姿の奇跡の水先案内人は、最後の問いを投げつける。
「ミカサ・アッカーマン。君の魂を対価に、どんな奇跡を望む?」
キュゥべえの問いを聞き、深呼吸する。ミカサは、心を落ち着かせる。
そして、自力で考えた精一杯の願いを、悲痛の想いを吐露する。
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- 14 : 2014/02/12(水) 00:55:32 :
「家族が欲しい。大切な人を守れる強い力が欲しい」
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- 15 : 2014/02/12(水) 00:55:50 :
- ―あ。そういえば…。
ミカサは願った後に気付いた。願いを二つ言ってしまった…。
なんだかんだで、ミカサはまだ少女なのだ。お茶目である。
―ちゃんと、叶えてくれるかな…。
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- 16 : 2014/02/12(水) 00:56:12 :
- 不安が頭をよぎった瞬間、胸が締め付けられるような痛みを感じた。
同時に、自分の体の周りに、力強い光を帯び始める。
「っ!」
ミカサは、声にならない悲鳴を挙げた。声にならないことが幸いして、強盗が駆け付けてくることは無かったが、そんなことよりも、自分の体の方が心配である。
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- 17 : 2014/02/12(水) 00:56:52 :
- 「…」
手の自由が効かないミカサが、痛みに耐えようとうずくまっている姿をキュゥべえは、顔色一つ変えずに、見下ろしている。
それもそうだ、彼には感情が無いからである。
―キュゥべえが、縄をほどいてくれれば良いのに…。
素朴だが的を射た疑問を抱いた刹那、彼女の心臓がズキン、と鳴った。
左胸の辺りから、何かが浮き出てくる。
その時、ミカサは何か大切なモノを奪われた気持ちになったが、眼前に現れた宝石に釘付けとなった。
その宝石は、先ほどの光とは対照的な、心に訴えかけてくる温もりを帯びていた。
それは、冬の日にミカサを寒さからかばってくれる太陽の日差しのような、温和な光である。
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- 18 : 2014/02/12(水) 00:57:05 :
- 「君の祈りは、エントロピーを凌駕した。契約成立だ」
―よかった…。願いを聞いてくれた…。
つまりは、その宝石がミカサの望んだ“奇跡”の形、ソウルジェムである。
光が落ち着いてきて、ようやくその宝石の全体像を見ることが出来た。
その愛らしい形に、ミカサは、卵みたい…、と思った。
しかし、色は卵とは程遠い、澄み切った青空をそのまま写したようなすがすがしい色だ。
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- 19 : 2014/02/12(水) 00:57:19 :
- 「ソウルジェムの色は、契約者自身の“祈り”と、“人物像”が反映される。言ってみれば、君のイメージカラーみたいなものかな」
ミカサは、満足していた。この色が好きだったのだ。
両親と眺めたいつの日かの空を、思い出す。
そのいつぞやの記憶と、この“奇跡の宝石”の色が、合致して、自然と心に希望が満ち溢れていた。
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- 20 : 2014/02/12(水) 00:57:37 :
- 「気に行ってもらえたようで、嬉しいよ。どこへ行くにも、肌身離さず持ち歩いてね!」
「…」
彼女は、多少いらついた。
盗賊に監禁されてから紆余曲折あったが、その行動すべて手が縛られた状態でのことだ。
実際、ソウルジェムを見せられたところで、触ることもできないし、当然持って歩けない。
なぜなら…、手を縛られているからだ。
心なしか、主人に触れてもらえず、ソウルジェムが寂しそうである。
ミカサは、キュゥべえに反抗的な目を向ける。
その目に隠されている意図を、キュゥべえはすぐに察知した。
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- 21 : 2014/02/12(水) 00:57:54 :
- 「ああ、ごめん。手を動かせない人間に、かける言葉では無かったね」
そう言って、キュゥべえはソウルジェムに何かを念じた。
ソウルジェムが小さな球体となって、ミカサの後ろに回った。
そうして、彼女の指にとどまった。ミカサは、左手の中指に違和感を覚えた。
「ソウルジェムは、普段は指輪となって、君たち魔法少女の指にはめられる。さっきみたいな宝石の形に戻すのは、頭の中で思い浮かべるだけで良い」
「うん…」
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- 22 : 2014/02/12(水) 00:58:13 :
- 正直、ミカサは度肝を抜かれていた。
この世界は、巨人が強者として大地を蹂躙し、かつて隆盛を誇っていた人間が弱者として生きながらえている。
ただでさえ、この現状が理解不能であるのに、それを凌駕する“謎”が浮上したのだ。
ミカサは、つくづくおかしな世界に生まれたなぁ…、とため息をついた。
その“謎”を連れてきた張本人はと言うと、一仕事終えたような顔をしていた。
「じゃあね、ミカサ。何かあったら、ボクを呼んでね!」
「えっ、ちょっと…」
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- 23 : 2014/02/12(水) 00:58:30 :
- ミカサが呼びとめるも、キュゥべえは待ってくれず、どこかに消えてしまった。
ミカサは、不信感を覚えた。
それもそのはずだ。彼女の願いは、叶っていない。
正義のヒーローが颯爽と登場する訳でもない。この状況を打開する力が湧いてくるわけでもない。
―騙された…。ただ、契約を得る為の、口車に過ぎなかったのかなぁ…。
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- 24 : 2014/02/12(水) 00:58:45 :
- その時、不意に部屋のドアが開いた。
ミカサは、意識を窓からドアへ意識を移した。
入ってきたのは、彼女の両親を殺めた、強盗三人組の内の二人だった。
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- 25 : 2014/02/12(水) 00:58:57 :
- ×
キュゥべえと契約してから、どれほど時間が経っただろうか…。
30分も経過していないだろうが、ミカサは何日も寝たきりの状態のような感覚だった。
最初は、一人だったから、多少は気が楽だった。しかし、今となっては強盗二人が彼女を監視している。打ち合わせか何かが終わって、見張りに来たのだろう。
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- 26 : 2014/02/12(水) 00:59:38 :
- 「し…、しかたねぇだろ!?抵抗されたんだ!!」
その強盗は、言い争いをしている。
どうやら強盗は、ミカサの母親を狙っていたらしい。純血の東洋人は、母しか生きていなかったので、彼女を攫い、高値で人身売買をしようと画策していたのだ。
だが、彼女が抵抗してきたので、勢いで殺してしまった。それが言い争いの議題である。
「…」
ミカサは、傷心していた。
自分の大切な家族をこんな理由で殺された事、自分を“商品”扱いされた事。
それに加えて、キュゥべえに騙された事。
これらが、覆いかぶさってミカサの心はまたしても、暗闇色に染まる。
ソウルジェムに映った空色が、嘘のよう。今の彼女のイメージカラーは“鉛色”である。
そんな彼女は、また悲観的になる。
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- 27 : 2014/02/12(水) 00:59:56 :
―私には、寒くて生きていけない…。
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- 28 : 2014/02/12(水) 01:00:14 :
- 間もなく、
「ごめんください」
ミカサと同い年くらいの、少年が部屋のドアから顔をのぞかせた。
少年は、部屋の異様な雰囲気に気押されて、多少狼狽する。
それは、強盗も同じみたいで、強盗の一人が怒声を浴びせる。
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- 29 : 2014/02/12(水) 01:00:28 :
- 「オイ、ガキ!どうして、ここがわかった!?」
「…え…?えっと、ボクは、森で…、迷って…。小屋が見えたから…」
少年の、涙に濡れる顔を見たもう一人が、「適当にあしらえ」と手で合図する。
それを、下っ端の男が確認し、
「だめだろぉ~?子どもが一人で森を歩いちゃ。森には怖いオオカミがいるんだぞ~?」
と、少年をなだめる。
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- 30 : 2014/02/12(水) 01:00:47 :
- 「でも、もう心配いらないよ。これからはおじさん達と一緒に、」
男が全ての言葉を言い終える前に、男の首筋に何かがあてがわれた。
どうやら、刃物であるらしい。
少年は、男に声をかける。
「ありがとう、おじさん…」
「?」
「もう…、わかったからさ」
少年は、人思いにその刃物を振りぬく。
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- 31 : 2014/02/12(水) 01:01:00 :
「死んじゃえよ、クソ野郎」
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- 32 : 2014/02/12(水) 01:01:14 :
- 大量の鮮血がはじけ飛ぶ。少年は、その男を、ゴミを捨てるように床に投げつけた。
ミカサは、人が死ぬ光景を一日で三回も見てしまった。
「は……!!う、嘘だろ……?」
椅子に腰かけていた男は、その光景に面を食らい、椅子を吹っ飛ばして立ち上がった。
少年は、目に殺意を滾らせたまま、ドアを閉め、部屋から退散してしまった。
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- 33 : 2014/02/12(水) 01:01:38 :
- 「オイ…!?ま、待ちやがれ!!」
ドアの向こうに少年が隠れていると踏んだ男は、ドアを開けるなり「このガキ!!」と叫び、斧を振りかぶった。
しかし、少年は反対の用具室に潜んでいた。刃物を紐で固定したモップを武器に男目がけて突進してきたのである。
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- 34 : 2014/02/12(水) 01:01:52 :
- 「うわあああああああああああああああ」
少年が、ありったけの力を込めて放った一撃は、男の右肩にヒットした。
男が、仰向けに倒れる。少年は、馬乗りになってもう一つの刃物で、男の最期を見るべく男を刺し始めた。
「この…ケダモノめ!!死んじまえ!もう起き上がるな!!」
そう言って、少年は“男の人生”に終止符を打とうとした。
ミカサは、ある種の狂気を感じた。
目に涙を蓄えながら、叫び続ける。その涙は、先ほど見た涙とは違った。
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- 35 : 2014/02/12(水) 01:02:07 :
- 「お前らなんか……こうだ!!こうなって当然だ!!」
男は、息絶えていた。
逆に、これでも生きていたらそれこそケダモノである。
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- 36 : 2014/02/12(水) 01:02:19 :
- 「もう、大丈夫だ…。安心しろ…」
少年はそう言って、ミカサに近づいてくる。
彼女は、少し、怯えた。
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- 37 : 2014/02/12(水) 01:02:33 :
- 「お前…ミカサだろ?オレはエレン…。医者のイェーガー先生の息子で…」
縛られた縄を少年が気ってくれた。
どうやら、少年は、エレン・イェーガーと言うらしい。
自己紹介をしてくれているが、他の事が頭に入ってこない。
その傍らで重要な事を思い出した。
「三人いたハズ」
「え?」
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- 38 : 2014/02/12(水) 01:02:56 :
- エレンが聞き返したすぐ後である。床の軋む音が聞こえたかと思うと、そこには大柄の男が立っていた。
エレンが、血相を変えて刃物に手を伸ばすが、男の蹴りで阻止された。
振り切った蹴りは、堪えたらしく、部屋の一角で悶えている。
男は、少年に情けをかける気はさらさら無いようで、胸倉を掴んで、壁に叩きつけた。
「信じらんねぇ…。てめぇが殺ったのか!?オレの仲間を…!!」
男は憤慨している。
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- 39 : 2014/02/12(水) 01:03:17 :
- 「てめぇ…。よくも……!!殺してやる!!」
エレンを締め上げるその手には、時間が経過するほどに力が込められる。
「あっ……」
ミカサは、とてつもない恐怖と罪悪感に襲われた。
何も出来ない自分…。ただ震えてその光景を傍観するしかない自分…。
だが、そんなミカサを尻目に少年は、ありったけの精力を込めて、訴えかける。
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- 40 : 2014/02/12(水) 01:03:31 :
- 「戦え!!」
少女は、背後にある刃物に目をやる。
「戦うんだよ!!」
「この…ガキ!?何考えてやがる、このガキ……!!」
ある意味、エレンのぶっ飛んだ意志を聞き、男は締め上げる力に拍車をかける。
男も、エレンを殺すのに必死だった。
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- 41 : 2014/02/12(水) 01:03:48 :
- 「勝てなきゃ…死ぬ…。…勝てば、生きる…」
エレンは虫の息になりながらも、言葉を紡ぎだす。
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- 42 : 2014/02/12(水) 01:04:02 :
「戦わなければ、勝てない…」
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- 43 : 2014/02/12(水) 01:04:14 :
- ミカサは、決心した。
そう。“奇跡”に頼る為の決心では無い。自分の力で“勝つ”為の決心である。
ミカサは、刃物を手に取った。少女は、震えている。
いざ凶器を持って、敵を見据えてみると、頭で考えている以上に恐ろしい行為である。
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- 44 : 2014/02/12(水) 01:04:37 :
- 「そんな……。できない……」
ミカサの声に失望したように、エレンが気を失ってしまった。
そして、この衝撃はミカサの脳にある場面を想起させた。
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- 45 : 2014/02/12(水) 01:04:59 :
- ―この光景は、今までに…何度も、何度も、見てきた…。
ミカサは、改めて自然の摂理を思い出した。
カマキリに、蝶々は食べられている所…。父が、鉄砲で鳥を仕留めたこと…。
強者が、弱者を支配すること…。
―そうだ…。
-
- 46 : 2014/02/12(水) 01:05:11 :
―この世界は…、残酷なんだ。
-
- 47 : 2014/02/12(水) 01:05:31 :
- その時、ミカサの震えは止まった。そして、ミカサは溢れんばかりの力を確認した。
ミカサは、少し前にした契約の一方を呼び起こす。
『大切な人を守れる強い力が欲しい』
―この願いが、この力の源なの?
ミカサが言う“大切な人”はエレンなのだろうか?
それとも、彼女を救ってくれた恩人のピンチに願いが反応したのだろうか?
答えは出ないが、ミカサはその力を最大限に活かそうとした。
左手中指で輝くソウルジェムが、その気持ちに拍車をかける。
-
- 48 : 2014/02/12(水) 01:05:47 :
- ―戦え…。
その時から、ミカサは自分の体を完璧に支配できた。
―戦え!
心臓が高鳴る。血液が沸騰する。筋肉が軋む。
ミカサは、精一杯の力で刃物を握る。その握力に耐えきれず、刃物の持ち手が潰れる。
―戦え!!
ミカサは、何でもできると思った。
ミカサは、足に全体重を乗せ、踏み出した。そして、チーターが獲物を屠るがごとき素早さで、男に接近。蜂が毒針を打ち込むような正確さで心臓を突いた。
-
- 49 : 2014/02/12(水) 01:06:47 :
- ×
憲兵団が駆け付け、エレンの父、グリシャがエレンを抱きしめた頃は、すっかり陽は落ちていた。
澄み切った空気は、ミカサの体を震えさせた。
-
- 50 : 2014/02/12(水) 01:07:01 :
- 「く……、エレン…」
グリシャは、エレンを力いっぱい抱きしめた。その顔には、安堵と、非難を併せ持っていた。
助かったから良いものの、下手を打っていたらミカサとエレンは殺されていた。
グリシャは、自分の息子をとがめる。
「お前は…。自分が何をしたのかわかっているのか…!?」
-
- 51 : 2014/02/12(水) 01:07:18 :
- エレンは、悪い事をしたと思っていないらしく、むしろ父に突っかかっている。
ミカサはその親子喧嘩を、ただ茫然と眺めていた。
「私は、お前が自分の命を軽々に投げ打ったことを咎めているのだ!!」
父は、息子の後先を考えずに、強盗の陣地に乗り込んだ作戦を非難した。
少年はうつむき、黙り込む。少し考えた後、瞳を潤ませながら、心の内を語った。
-
- 52 : 2014/02/12(水) 01:07:28 :
- 「早く…、助けてやりたかった…」
その言葉に、グリシャは悲痛な面持ちを浮かべ、反論することは無かった。
そうして、隣で立っていたミカサに声をかける。
-
- 53 : 2014/02/12(水) 01:07:42 :
- 「覚えているかい?君がまだ小さい時に、何度か会っているんだが…」
ミカサは、心に風穴が開いたような気分だった。
一応、契約の際の願いは、一つ叶った。あくまで“一つ”だ。
契約した瞬間に、気付いた些細なミス。それの代償が、支払わされたのだろうか。
正直、ミカサは最初に言った、「家族が欲しい」を優先してほしかったのだ。
しかし、もう一つの願いが叶ってしまった。
大切な人を守る力を得たとしても、その大切な人が存在しない…。
-
- 54 : 2014/02/12(水) 01:08:02 :
- 「イェーガー先生。私は…、ここから…、どこに向かって、帰ればいいの?」
イェーガー親子は言葉を失った。
ミカサには、かける言葉が見つからないようにも見て取れた。
「寒い……。私には、もう…、帰るところがない…」
-
- 55 : 2014/02/12(水) 01:08:28 :
- そう呟いたミカサに、少年は静かに、しかし丁寧に彼のマフラーを巻いてあげた。
「やるよ、これ。あったかいだろ?」
「……」
エレンがくれたマフラーは、赤かった。
それ以上に、少年の行為がとても温かな色を帯びていた。
その温度が自ずと、ミカサの心身を癒してくれる。
ミカサは、素直な言葉をもらす。
「あったかい…」
-
- 56 : 2014/02/12(水) 01:08:54 :
- すると、グリシャは明るい声で提案してきた。
その声色は、ミカサを導く光明のようだ。
「ミカサ。私達の家で、一緒に暮らそう」
「え…」
「辛いことがたくさんあった…。君には十分な休息が必要だ…」
-
- 57 : 2014/02/12(水) 01:09:16 :
- ミカサは、自分の耳を疑った。目を見開く。
視線の先、小屋のウッドデッキの柵に、キュゥべえがそっとこちらを見ていた。
ミカサと視線が合うと、キュゥべえはにっこりとほほ笑んでくれた。
―もしかして…。
-
- 58 : 2014/02/12(水) 01:09:36 :
- 「……」
「なんだよ?」
エレンが、ミカサに声をかける。
「ほら」
少年は、服を掴んだ。
そして、ミカサを、少年の新たな家族に声をかけた。
「早く帰ろうぜ。オレ達の家に」
「…うん」
ミカサの本当の願いが今、叶った。
-
- 59 : 2014/02/12(水) 01:10:10 :
「帰る…」
少女の頬を、一筋の涙が伝う。
その涙は、今日流したどの涙よりも、温かかった。
-
- 60 : 2014/02/12(水) 01:10:31 :
- ×
彼女らが帰った後も、未だにキュゥべえはその場から離れなかった。
「やれやれ、ようやく彼女の“願い”が叶ったよ」
キュゥべえは誰かに、語るわけでもなく、一人でぼそぼそと喋っている。
-
- 61 : 2014/02/12(水) 01:11:06 :
- 「しかし、ミカサ・アッカーマン。彼女は素晴らしい因果の持ち主だ。ただの平凡な少女が何故、あれだけの素質を持っているのかは、理解できない」
ミカサの事について、話しているみたいだ。
その言葉の一つ一つは、とても小動物の容姿を持つ生物のものとは思えない。
まるで、任務の為なら手段を選ばない歴戦の戦士のようだ。
「この世界では、魔法少女がいない。つまり、魔女も存在しない。これは、ソウルジェムを浄化する手段が無いという意味だし、一度穢れたら、絶望一直線だよね」
キュゥべえは、興奮を抑えきれていないように見える。
-
- 62 : 2014/02/12(水) 01:11:32 :
- 「彼女の力だけで、エネルギー回収ノルマはおおむね達成できる。ただその時を待つだけで、莫大な量のエントロピーを入手できるのだから、楽だね!ミカサが絶望するのが、今から楽しみだよ」
つまりは、ミカサはキュゥべえの捨て駒である。
どうやら、少女が絶望する事が、キュゥべえたちの言う“エネルギー”に関係するらしい。
ミカサは、そのエネルギーを手に入れる為の、いわば供給元で、“奇跡の実現”はその供給元を動かす、動力源と言ったところか。
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- 63 : 2014/02/12(水) 01:11:45 :
- 「それに、心も弱いみたいだ。僕が推測するに、“大切な人の死”が絶望の引き金になってくるだろうね。この世界の条理ならば、簡単に絶望をミカサに与えてくれるだろう」
少なからず、キュゥべえはこの世界の理を知っているらしい。
だが、優先するのは、エネルギー回収ノルマである。
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- 64 : 2014/02/12(水) 01:15:08 :
- 「ミカサが魔女になってしまったら、この世界の壊滅させる規模になるだろうね。でも、宇宙全体の利益を考えたら、地球の壊滅は意義ある犠牲だと思う」
その言葉を最後に、キュゥべえはこつぜんと姿を消した。
この世界に、新たな脅威が生まれてしまった。
それは、ミカサ・アッカーマン自身である。
その道を進むよう選択したのは、ミカサ自身だ。
そんな彼女が、本当に魔女となってしまう日が来てしまうのだろうか…。
それは、キュゥべえですら知らない未知の領域かもしれない…。
Fin-
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- 65 : 2014/02/12(水) 01:16:23 :
- 以上です、拙文お許しください。
ここまで見てくださった方、あるがとうございます。
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- 66 : 2014/02/28(金) 07:34:15 :
- 腹筋の魔女(ミカサ)
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